高次脳機能障害の等級基準と日常生活状況報告書の重要性
1 高次脳機能障害とは
物を見て覚え、考えて判断し、その場に応じて行動するための認知能力や行動遂行能力。
社会の中で他人と協調し生活する上で必要となる社会的行動能力、コミュニケーション能力。
このような人間らしい生活をつかさどる脳の機能を「高次脳機能」と呼びます。
交通事故で脳の神経が損傷すると、高次脳機能が損なわれる「高次脳機能障害」となり、日常生活に大きな支障が生じてしまうことがあります。
具体的な症状としては、以下のようなものです。
・ついさっきのことを忘れる
・目の前のものに気付かない
・話が噛み合わなくなる
・同じことを何度も話す
・突然怒り出す
・マナーを守らなくなる
些細なことでも積もり積もれば、生活リズムが崩れ健康を害し、ご近所づきあいや親族関係、友人関係も壊れてしまうおそれがあるのです。
2 後遺障害等級認定と損害賠償金の基礎知識
⑴ 後遺障害の等級について
後遺症が残ってしまった場合の損害賠償金は、後遺障害等級認定手続で「後遺障害」と認定されてはじめて支払われるようになるのが原則です。
その金額は、症状の重さなどに従い認定される「等級」に大きく左右されます。
高次脳機能障害の場合、認定される等級は1級・2級・3級・5級・7級・9級が基本です。
後遺障害の損害賠償金には「後遺障害慰謝料」や「逸失利益」などがありますが、後遺障害慰謝料だけでも、以下の表のように大きな差が生じます。
【自賠責基準】(自賠責保険からの支払いの目安)
1級:1650万円
2級:1203万円
3級:861万円
5級:618万円
7級:419万円
9級:249万円
【弁護士基準】(弁護士に依頼したとき支払総額の目安)
1級:2800万円
2級:2370万円
3級:1990万円
5級:1400万円
7級:1000万円
9級:690万円
⑵ 高次脳機能障害の症状と基準
高次脳機能障害で後遺障害等級が何級に認定されるのか?
その見通しはとても難しいものです。
高次脳機能障害の症状は「事故前と比べて生じた被害者様の日常生活における問題」です。
以下のような特徴があることから、高次脳機能障害の症状を審査機関に伝えることは難しくなります。
【客観化できない】
検査によって、症状の内容や程度を、数値や画像など目に見える形で明らかにできない
【周囲の環境の影響】
高次脳機能の低下だけでなく、被害者様の周囲の生活環境や人間関係も踏まえなければ、症状を説明できない
【証拠化が困難】
事故前の被害者様をよく知っていて、かつ、事故後に被害者様と身近で触れあっていなければ症状を把握できない
症状自体があいまいな高次脳機能障害では、なおさら基準として不明確ということで、「補足的な考え方」で基準が具体化されています。
【1級】
<等級基準>
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
<補足的な説明>
身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの
【2級】
<等級基準>
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
<補足的な説明>
著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、一人で外出することが出来ず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの
【3級】
<等級基準>
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
<補足的な説明>
自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの
【5級】
<等級基準>
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
<補足的な説明>
単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの
【7級】
<等級基準>
神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
<補足的な説明>
一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの
【9級】
<等級基準>
神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
<補足的な説明>
一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの
適切な等級の認定を受けるためには「ご家族や職場の皆様や学校の担任の先生など、身近な方による具体的な報告書で、被害者様の症状の程度や内容を審査機関に正確に伝えること」に尽きます。
3 日常生活状況報告書を書く際の注意点
高次脳機能障害の後遺障害等級認定で適切な等級として認定されるには、「日常生活状況報告書」に被害者様の日常生活における具体的な支障を豊富かつ丁寧に、他の資料と矛盾なく記載することが大切です。
日常生活状況報告書には、問題となっている被害者様の言動だけでなく、被害者様の周囲の環境も記載します。
・生活リズムや依存症傾向など身体や精神への影響
・周囲の人とのコミュニケーションの問題
・周囲の人や道具によるサポートの有無程度 など
そのため、既定の書式に別紙を添付して具体的な報告をすることが不可欠です。
報告書は既定の書式に添付した別紙に、被害者様の問題行動をエピソードの形でまとめていくと分かりやすくなります。
高次脳機能障害の症状は、被害様が暮らし働く周囲の環境や人々とのあつれきとして生じます。
そのため、症状を記載するときには、5W1Hを意識した「物語」「エピソード」形式で説明すると伝わりやすくなるのです。
もちろん、事故前との比較も忘れないでください。
そうなると報告内容は膨大なものになりますが、既定の日常生活報告書の書式には十分な自由欄がありません。
しかし、別の用紙に文章形式で記入した報告書を既定の書式に添付できますので、そちらに書き込むことができます。
4 高次脳機能障害の申請をするならまずは弁護士に相談
高次脳機能障害は、症状自体があいまいです。
症状を審査機関に報告するにしても、医学的専門的な検査ではなく、被害者様の周囲の方々が観察することで作成された報告書を用いることになります。
どの等級に認定されるか、等級基準とにらめっこしても見通しがつくものではありません。
結局のところは日常生活状況報告書などの資料をどれだけ充実させられるか、説得力ある内容にまとめられるか、矛盾がないかなど、証拠の質と量を向上させることで、より良い認定を受けられる可能性が高くなるのです。
既定の書式や補足的な考え方などを参考にしても上手く作成できない、自信がないことも多いでしょう。
そのため、まずはお気軽に当法人の弁護士にご相談ください。
被害者様の個別の事情に応じた日常生活状況報告書のポイントをアドバイスします。
申請手続での証拠収集のサポートや、保険会社との示談交渉で相場を増額する上でも、弁護士への相談や依頼はメリットがあります。
皆様のご来訪をお待ちしております。
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